"幸福号"は本当に幸福だったか？
幸福号ことわがMAZDA2 15MB。買ってから9か月というのはわが人生でも最短、最速である。なぜ私が幸福号を売却せざるを得なかったのか。この「間違い」を誰にも味わせたくないとの強い思いで、事の顛末をしたためていこう。
私が幸福号を購入した決め手は、ずばり楽しそうであったからだ。元々MAZDAがつくるクルマは楽しいに決まっている。さらに評判のいいMAZDA2と6速ミッション、そして高圧縮の専用エンジンが一つになった15MBは、まさしくスポゥツ・ハッチ。そこへ1,030㎏の軽量ときたもんだ。この瞬間、往年のファミリアへの思いのたけが爆発したのである。当時、ホットハッチの代表格であったスターレットの陰に隠れてはいたが、MAZDA評論界隈で密かに評判だったのが「ファミリア・スポルト」である。こいつは特別馬鹿力というわけではないものの、軽い車体が効いてとても速く、高回転まで伸びるNAフィイリングが特徴だった。
幸福号もきっとそうだ。こいつを買えば、きっと私の青春が帰ってくる。そうして私は190万円で即決した。果たして幸福号は四十年前のファミリアを相手にしなかった。ところが納車初日の私はすでに、幸福号に対していささか期待外れの感を抱いていたのである。
どれほど隠そうと、忘れようとしても、結局は最後までついて回った。幸福号は所詮はMAZDA2という出自である。たとえばスイフト・スポゥツなら、固めた足回りに専用チューニングのタァーボ・エンジンで武装し、まさしくホットハッチと言えるほどの実力を得ている。ところが15MBは違う。メーカァは殆ど手を入れませんから、あとは煮るなり焼くなり勝手にどーぞってなスタンスである。だからM(モータァスポゥツ)B(ベース)な訳ではあるのだが、ちょっとくらいはMAZDA独自のチューニングが入っているはずと期待していた私の立場はどうしてくれる。もちろんつまらぬ期待を抱いた方が悪い。しかし、MAZDAにはそれくらいの甲斐性があってしかるべきだ。
吊るしで満足する勿れ
けして勘違いはしないでほしい。MAZDA2は世界と肩を並べる素晴らしいコンパァクト・カーだ。MAZDA2という素材の良さを6速ミッションで味わうというのは、素うどんもしくは、肉を塩で食べるのとかと似通った行為である。これぞまさしく、通。北大路魯山人ならば、幸福号をノーマルで乗っても何の不満も抱かぬどころか、これぞ至高の一品と言ってのけるやもしれぬが。しかし、いくら時代が進んだとはいえ、そういう本物志向の人間はまだまだ少ないだろうし、だいいち誰彼もが魯山人を気取る世の中なんて末法だ。
話があらぬ方向へいってしまった。つまり、である。私が声を大にして言いたいのは、MAZDA2 15MBを「吊るしで乗るな」ということだ。これで満足することなど有ってはいけない。免許返納間近のおじいさんならまだしも、将来の日本をしょって立つ若者が素うどんでどうする。若い時分は無理をしてでもドロドロしたやつを食っとけと言う話である。